99年度上半期の株式市場の見通し

平成11年4月1日


日経平均は年初の水準である1万3000円台の安値から大幅に上昇し、現在は1万6000円台に乗せている。持ち合い解消売りを吸収している外人投資家の大幅な買い越しがその牽引役であるが、個人投資家のここ1ヶ月の参戦も相場が大きく崩れない要因となっている。

夏にかけて公共投資の増額の効果、消費、デフレ圧力の一時的な緩和、消費マインドの改善等から目先の景気底打ち感や需給関係からこの基調を崩す要因は今のところ多くなく、日銀による量的緩和(実質短期金利ゼロ)によるミニ金融相場の流れは5、6月にかけて暫く続く可能性があろう。これは米国が92年の7月・9月と二度にわたって短期金利を引き下げたため実質ゼロ金利となり、預金から株式に資金が移動したことを思い出させるような動きとなろう。

しかし、デフレ要因が継続している最中では小渕政権が今後新たな景気対策および構造改革の政策等を打ち出したとしてもその短期的効果は限られるため、景気は再び年後半にかけて失速、プラス成長は早くて2000年度と思われる。

よって、99年度の企業収益回復を株価に早期に織り込んでいることと合わせると、バブル崩壊後の傾向である年央高(90年・93年・94年・96年・97年)になる可能性があり、相場の転換点を早めに捉えること(どの辺りが株価天井であるか)がこの上期のポイントと考える。


日本経済の見通し

98年10〜12月期のGDPは年率3.2%の大幅減少となったが、政府はこの時期が日本経済の底と認識している。

確かに、マンション販売の活況、パソコン販売の好調、在庫調整の進展、企業倒産件数の減少といった統計数字が現われ、中小企業および個人消費のマインド回復(2月の消費者心理動向など)や大手15銀行に19兆円超の資本注入を行ったことによる金融システムの安定、日経平均株価の上昇、公共投資の前倒し効果が加わり、日本経済は最悪期を脱したように見えよう。

しかし、楽観は禁物だ。日本経済は3つのデフレ圧力が残っている。

第一に企業のリストラ。負債、設備、雇用のリストラは始まったばかりであり、特に雇用の一段の削減は高齢化社会の進行に合わせて、GDPの6割を占める個人消費のマイナス要因となろう。

第二に、銀行システム問題。今回の資本注入は抜本的な解決の最終段階でなくスタート台に過ぎない。

第三に海外情勢。アジア経済は完全に大底圏から脱したが、逆に欧州や米国景気が減速しそうだ。よって、政府は日本経済が再び下向きに転じる前に、新たな財政、金融両面での景気刺激策に迫られるだろう。特に、金利高を抑える努力と円安方向への定着が必須条件となろう。

一方、小渕首相が自ら議長になって「産業競争力会議」を発足させるが、これがうまい方向に日本経済を導けばムードもがらりと変わる。要注目。

株式市場の相場見通し

日銀の量的緩和は株価に大きな好影響を与えた。平均株価の上昇とともに、3月には銀行、証券、不動産セクターの上昇が目立ったことがそのことを裏付けている。

また、銀行の定期預金は実質ゼロ状態で個人投資家の参戦も増加、外国人投資家は3月19日迄で1兆4000億円超の買い越しと過去最高の買いペースだ。個人は回転が効き始めているほか、外人は一度買い越すと長い期間買いつづける傾向がある。

さらに、国内の年金等、新年度の資金も流入してくる4月・5月・6月の前半は揺れながらもリバウンドトレンドが持続、株価は従来どおりの年央高となるだろうと考えられる理由だ。4〜6月迄で平均株価は1万7000円台半ば近辺を目指そう。

しかし、その水準以上に株価が上昇するには、ファンダメンタルズ上、およびテクニカル上の裏付けが乏しい。すなわち、日本経済が落ち込む前の97年1月安値の1万7300円どころを抜くには、日本経済がボトムアウトして上向くという統計上の数字の裏付けがないと、ファンダメンタルズ上説明がつきにくい(97年1月〜6月までの平均株価の上昇は2極化、すなわち国際優良株の上昇にひきずられた形での一時的上昇で、景気後退を予想した相場トレンドは96年高値から下落基調にあった) 。

また、96年6月の高値2万2666円から98年10月の安値、1万2879円の下げ幅の半値戻しは17770円どころであり、チャート面での戻りのめどとなろう。


ただ、下期後半にかけては、2000年度の日本経済回復期待を背景に、再び調整局面にあった株価の反発が想定され、1万8000円も想定される。

需給関係

年度前半の需給関係は良好と見られる。

年金・公的資金の株式購入可能資金は98年度(5兆5000億前後か)と同程度と推定されるものの、例年4月から6月には買い越しが膨らむ時期。

また、90年代7回目になるが、外人投資家は当面買い越しを続けよう。日本株をオーバーウエイトしている外人投資家はほぼゼロといってよく、例えば、英年金だけで日本株の比率を10%に引き上げれば10兆円の買い余力が生まれるという。

また、国際分散投資の観点から指数上昇(日経平均)があれば、さらに買わざるを得ないのが実状で、有価証券取引税の廃止も追い風となり、年間買い越し額は3兆から5兆円へ拡大期待も出よう。ただし、原油価格の上昇等国際商品市況が米国金利に影響を及ぼし、ニューヨーク株の急落(単なる調整ならベスト)につながると買い越しペースは急速に細くなるが。

持ち合い解消売り圧力は強い。時価会計導入を控え、都市銀行(富士銀行は年間2千億円で計1兆円、住友銀は今年度1千億の売却)を始めとした金融機関や生命保険、事業法人も売りが継続しよう。

とはいえ、4から6月にかけては比較的少なく(相場上昇期待が出れば下期に先延ばす)、また、受け皿としての企業年金への株式拠出、自社株買いのための税制面での優遇等が相次いで検討されており、相場を売り崩す要因とはなりにくい。

銘柄選択の視点

平均株価の上期高値が1万7000円半ばと想定すれば、指数面からは1万6000円台から買って儲かる余地はそれほど大きくないように見える。

しかし、上半期においては平均株価は脇に置いて、各局面ごとに物色対象を幅広く探すのがより効率的であろう。なぜなら、上半期の間は下値不安が非常に乏しいからである。よって、以下に述べる視点「マネジメント改革・リストラ」、「低位株についての考察」、「新テーマとして高齢化関連銘柄」から選択銘柄対象を考えたい。

情報通信市場の拡大は21世紀にまで続き、NTT3社:NTT(東証一部、通信=9432)、NTTデータ(東証一部、サービス=9613)、NTTドコモ(東証一部、通信=9437)関連銘柄が相場の中心となろう。しかし、NTTデータとNTTドコモは株価バリュエーション上から上値が重くなりそうである。よって、NTTとソニー、東芝を主力銘柄のなかではコア銘柄とする。

セクター判断は、下期以降のやや円安、技術力、産業景気の見通しから、電機、精密とアミューズメント、情報、通信をオーバーウエイトとしたい。最悪期を脱しつつある素材、市況関連株をニュートラルにすべきだ。

また、買いの主体が外国人であれば、外人持ち株比率の低くかつ、好業績株が狙い目となる。

一方、国内機関投資家が買わざる得ないを銘柄は、バリュエーション以上の高PERが是認されている。

例:ソフトバンク(東証一部、商業=9984)、光通信(店頭、運輸関連・倉庫。通信=9435)、富士ソフトABC(東証一部、サービス=9749)、NTTデータ(東証一部、サービス=9613)。

マネジメント改革・リストラ

99年度上期の中心のテーマはやはりこれである。

足元の企業収益はもはや先送り出来ぬ状態に迄悪化しており、日本企業は3つの過剰、すなわち雇用、設備、負債の過剰をようやく削減する経営改革(リストラ)に取り組み始めた。それが、現在の日本株上昇の大きな理由となっている。

ただ、これからは単に雇用の削減というような後ろ向きなリストラだけでは市場で評価されず、以下の3つに分類されるような経営改革を実行する企業が注目される。

第一に、事業を絞り込み、コストダウンを進め、得意分野への経営資源の集中を行う企業:

−参考銘柄−

東芝
(東証一部、電気機器=6502)
三洋電機(東証一部、電気機器=6764)
ジャパンエナジー(東証一部、石油・石炭製品=5014)
宇部興産(東証一部、化学=4208)
日本精工(東証一部、機械=6471)
東レ(東証一部、繊維=3402)
新日鉄(東証一部、鉄鋼=5401)
住友鉱山(東証一部、非鉄・金属=5713)
伊藤忠(東証一部、商業=8001)
すかいらーく(東証一部、商業=8180)
NEC(東証一部、電気機器=6701)
三井不動産(東証一部、不動産=8801)
旭化成(東証一部、化学=3407)
ヤクルト(東証一部、食品=2267)

第二に、ブランド力、資本力、販売力を背景として、グローバル化を進めて発展していく企業、またはいこうとしている企業:

−参考銘柄−

ソニー
(東証一部、電気機器=6758)
NTT(東証一部、通信=9432)
サンリオ(東証一部、商業=8136)
アサヒビール(東証一部、商業=2502)
カシオ(東証一部、電気機器=6952)
シチズン(東証一部、精密機器=7762)
ファナック(東証一部、=電気機器6954)
キャノン(東証一部、電気機器=7751)
花王(東証一部、化学=4452)
住友ゴム(東証一部、ゴム製品=5110)
本田技研(東証一部、輸送機器=7267)
トヨタ(東証一部、輸送機器=7203)

第三に、技術力(日米の技術分野特許比較)またはマネジメント力があるため、高成長市場またはニッチな(すき間)市場で高シェアを維持しており、そのためデファクトスタンダードを確立している企業、または確立しそうな企業:

−参考銘柄−

セブンイレブン
(東証一部、商業=8183)
TOWA(大証二部、6315)
アドバンテスト(東証一部、電気機器=6857)
マイカルカード(東証二部、金融・不動産=8519)
ミネベア(東証一部、機械=6479)
角川書店(東証二部、その他製造=9477)
シャープ(東証一部、電気機器=6753)
NTTデータ(東証一部、サービス=9613)
NTTドコモ(東証一部、通信=9437)
ベネッセ(大証一部、9783)
フジミインコ(店頭、ゴム・窯業=5384)
パーク24(店頭、サービス=4666)
フジシール(店頭、その他製造=7864)
ワールド(大証二部、3596)



低位株についての考察

低位、ボロ株が急騰している。銀行への公的資金投入で信用不安が解消されつつある、長谷工、フジタ、東京シティファイナンスなど相次ぐ債権放棄を好感した買いが個人から入った。

ただし、潰れそうな銘柄はこれからは要注意。

金融機関が債権放棄と引き換えに株式を取得する「債務株式化(デッド・エクイティ・スワップ)」が具体化しているが、これは企業の過剰債務問題が景気回復の足かせになっているという認識が広まったことによる。しかし、債権放棄を受ける企業は、世論の同意を得るために株主責任を負わされる(減資)危険がより高まるのではないだろうか。

また、中小生命保険会社の経営危機云々が出れば、これらの株は売られる危険性がある。

新テーマとして、高齢化関連

同関連株の国内機関投資家のニーズは高い。本命は、ベネッセ(大証一部、9783)とセコム(東証一部、サービス=9735)だ。ただし、今回の動きは理想外の第1段階であることに注意。

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